ここでは下肢静脈瘤に効果がある理学療法(運動療法)とはどのような治療法なのかを解説しています。
理学療法(運動療法)とは身体を動かすことで症状の軽減や機能の回復を目指すことを言います。
下肢静脈瘤では血流が停滞して循環しなくなり、足がだるい・重いといった症状が出ます。
これを軽減させるためには血液の循環バランスを整える必要があります。
血液を循環させるポンプの役割を担っているのが足の筋肉ですので、ふくらはぎを意識したウォーキングを行って足を動かすことで血流をよくすることができます。これが下肢静脈瘤の理学療法です。
足の筋力が衰えてしまうと下肢静脈瘤が進行するばかりですので、ふくらはぎなどの筋肉をある程度鍛えることでこれを食い止めようというわけです。
ただし、長距離のジョギングやエアロビクスなど激しい運動は下肢の静脈圧を高め、下肢静脈瘤を悪化させてしまうので注意が必要です。
ウォーキング以外では水泳は無理なく全身の筋肉を使うので推奨されます。
また、なかなか外にでる機会が少ないという場合は、つま先立ち運動や屈伸運動、つま先上げの運動など室内でできることから始めるのもよいでしょう。
ガードルやコルセットなどの補正下着などで身体を強く締め付けると、下半身の血行が悪くなり、下肢静脈瘤が悪化する場合があります。
また、タイトなパンツやサイズのきついボトムスも、下肢静脈瘤には悪影響を与えます。
いつもゆったりした下着を付けることや、窮屈なサイズのボトムスを履かないことが大切です。
前述の「身体を締め付けない」という点と矛盾するように感じるかもしれませんが、着圧ストッキングの着用は下肢静脈瘤の軽減や予防に効果的です。
着圧ストッキングには、足首からふくらはぎ、太ももまでの下肢を段階的に圧迫することで血行を促進する効果があります。
これによって下肢静脈瘤の症状である、むくみ・だるさ・こむら返りなどを軽減できるのです。
着圧ストッキングの効果は履いている間のみですので、身体が活動している日中にずっと着用しておくのが、手軽にできる下肢静脈瘤の対策法です。
着圧ストッキングには、市販のものと医療用のものがあります。
どちらも基本的構造は同じなので、正しく着用すれば下肢静脈瘤の軽減や予防には効果的です。
ただし、市販のものは医療用の物に比べて圧力が約半分程度と低いため、下肢動脈瘤の予防目的の方やごく軽症の下肢静脈瘤の方に適しているでしょう。
すでに下肢静脈瘤と診断されている場合や、症状が重く出ている場合は、医療機関で処方される着圧ストッキングを着用しましょう。
注意したい点として、血栓症、動脈硬化症、心臓に関する重度の疾患、感染症を持っている方の場合は、着圧ストッキングをはかないようにして下さい。
特に血管内に血の塊がある病気の場合、着圧ストッキングをはくことでそこを強く押さえてしまい、血流を止めてしまう可能性もあるため大変危険です。
また、ナイロンやラテックスのアレルギーがある方も着圧ストッキングの着用は要注意です。事前に医師に相談しましょう。
短期間の立ち仕事は、誰でも多少は行わなければならないでしょう。
しかし日常的に長期間立ち仕事をしていると、下肢静脈瘤になりやすくなったり、症状が悪化する場合があります。
立ち仕事であっても歩行を伴う仕事であればそれほど問題はありませんが、立った状態であまり歩かない仕事、例えばスーパーのレジや受付係、工場勤務者などは、特に下肢静脈瘤になりやすい仕事と言えるでしょう。
対処法としては、できるだけ歩く、つま先立ちなどをこまめに行って足を動かす、こまめに休憩をとる、などがあります。意識的に足を動かし休ませるようにしましょう。
家事をしている時にも、うっかりすると長時間立ったままになってしまうかもしれません。
自分で間隔を決めて、こまめに休憩をはさむように心がけましょう。
座った状態でオットマンやイスなどに足を投げ出して、下半身を完全にリラックスさせることも効果的です。
長時間座ったままの姿勢でいることが多い人も要注意です。
デスクワークの人も、まめに足の甲をパタパタと動かしたり、座ったままヒザを上げて太ももの運動をしたりと、下半身を動かすよう心がけましょう。
高齢で、座ったままテレビを見たりする時間が長い場合も、定期的に立ち上がったり歩いたりして下半身を動かしましょう。
血液の逆流を防ぐためには、日頃から足を動かすことが重要です。
とはいえ、毎日運動するのはなかなか大変ですよね。そこで、社会人や学生であればぜひ有効活用したいのが通勤・通学の時間です。
散歩やウォーキングの場合、毎日30分程度が最適とされており、成人の一般的な歩行スピードは時速約4km/h、早歩きなら時速約5km/hといわれていますので、距離にして2〜2.5kmほど歩くことになります。
あくまでも目安ですが、山手線の駅間距離の平均がおよそ1.2kmなので、例えば会社から1駅歩いて電車に乗り、自宅の最寄駅から1駅手前で降りて歩くなどしてみてください。
また、会社やマンションでは、時間に余裕があればエレベーターではなく階段を使うのも有効といえます。
まずは日常生活の中で無理のない程度で歩く距離・時間を増やすことで、血液が足に滞留するのを防ぐようにしましょう。なお、かかとから地面に着くように歩くとより効果的です。
かかとを上げ下げする運動は、筋ポンプの役割を担うふくらはぎの筋肉を鍛え、血液の循環を促すことにつながります。
オフィスなどで行う場合、椅子の背もたれを両手で持ち、3秒かぞえながらかかとを上げて爪先立ちをし、さらに3秒かけてかかとを下ろすという動作を数回繰り返してください。
短時間でできるので、お仕事の間のちょっとした気分転換にもぴったりです。
立って行うのが難しければ、あおむけの状態で足首を前後左右に動かすだけでも同じような効果が期待できます。
立ち姿勢・あおむけどちらも、ポイントはゆっくり動かすことです。
「歩く」という行為は日常生活で実践できますが、もし足が悪くて長時間のウォーキングは辛いという方や、プールなどに行く機会がある方であれば、さらにおすすめなのが水中歩行です。
水中では浮力が得られるため体重が軽くなり、足への負担が減ります。また、水の抵抗を受けることによって陸上で歩くよりも効率よく運動できる他、水圧による血液循環の向上も期待できるなど、通常のウォーキング以上のメリットがあります。
もちろん、水泳も下肢静脈瘤の予防や症状緩和に効果的ですので、水中歩行と合わせて実施してみてください。
水分が足りないと血液がドロドロになって血液の循環が悪くなるので、せっかく運動をしてもその効果が弱まってしまいます。
ウォーキングの際にこまめに水分補給をすることはもちろん、日頃から積極的に水分を摂取し、血流を良くすることを心がけましょう。
なお、お腹を冷やすと血流が悪くなるといわれていますので、水分摂取の際は冷たいものを摂りすぎないようにしてください。
下肢静脈瘤の一番の原因となるのは、肥満です。
多く蓄えられた皮下脂肪によって静脈の血流が阻害されることで、下肢静脈瘤が生じやすくなるのです。
食生活や適度な運動、また塩分、脂肪分、炭水化物の摂り過ぎに注意することで、肥満をできるだけ解消するように努力しましょう。
理学療法(運動療法)を採り入れてウォーキングを習慣化することは下肢静脈瘤治療の第一歩となるのですが、その目的は進行を遅らせることにあります。
ウォーキングをするだけで下肢静脈瘤が完全に治ればよいのですが、残念ながら症状を軽くすることはできても治すことはできません。
というのも下肢静脈瘤で血流が停滞してしまうのは静脈弁が壊れて本来心臓に戻っていくはずの血液が逆流してしまうからです。
足の筋力をつけることで、ある程度血流を改善することはできますが、それだけでは限界があります。
運動をすることで壊れてしまった静脈弁が元通りになることはないのです。
したがって、理学療法(運動療法)は比較的軽度の下肢静脈瘤に効果があるとされています。
中等度から重症の静脈瘤の症状がある場合は、別の治療法を受けることが必要とされます。
下肢静脈瘤は命に関わる病気ではありませんが自己判断は禁物です。
自分で考えているより進行してしまっている場合もありますので、必ず血管外科などの医師と相談して最適な治療法を選ぶようにしましょう。
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